上山市の「下水道」供用開始から40年、普及率は74% 未だ生活雑排水を垂れ流しする地域も、下水処理の仕組みは?
上山市における生活排水は一体どこで、どの様にして処理されているか知っていますか。
本市の公共下水道事業は1981年の供用から約40年が経過し、普及率は74.5%となっています。これは、全国平均と県平均のそれぞれと比較しても低い普及率であり、未だ下水道に接続されていない家庭が多くあります。
普及率が低いのはなぜか、また今後の上山市における下水道の在り方などについて調べてみました。
上山市における生活排水処理方法について
家庭などの台所やトイレ、お風呂などで使用した水を「生活排水」と呼び、生活排水をそのまま川に流すのではなく、下水処理場で適切に処理した後に川に放流するのが下水道の役割です。
トイレから出る水(し尿)を除いた水は「生活雑排水」と呼びます。
現在、上山市では「公共下水道事業」「農業集落排水事業」「特定地域生活排水処理事業」の3つで住宅や施設などから出た生活排水の処理を行っています。
日本における一般的な生活排水の処理方法は「公共下水道」で、上山市もほとんどの住宅などに公共下水道が接続されています。2024年7月時点で上山市が実施する生活排水の処理事業供用範囲は次のイラストの通りです。
なお、公共下水道の範囲については詳細な地域が未公開で、市の上下水道課に現在の供用範囲と今後の供用範囲について問い合わせをしましたが記事公開日まで返答がなかったため、「令和6年度 浄化槽設置工事補助制度説明書」の補助対象範囲を参照に当活動が独自で記載しています。
記事公開時点(2024年7月)で、3つの生活排水処理事業の供用範囲ではない地域は大まかに次の通りです。宮生地区全域・山元地区全域・中山地区全域・本庄地区の金山周辺・蔵王・坊平など。
雨水管と汚水管の違い
下水道は、「雨水管」と「汚水管」の2つが存在します。
雨水管は、道路にある側溝などから集まった雨水が通っています。浄水センターには接続されず、そのまま河川へ放流されます。地域によっては、雨水管を直接河川へ接続するのではなく、調整池と呼ばれる雨が降った際に一時的に雨水を溜め、河川の急な増水により洪水被害を防ぐ施設が設けられています。
汚水管は、家庭から出たトイレやお風呂の水など、生活排水が通っています。それぞれの地域から浄水センターへと接続され、処理をした後に河川へ放流されます。
雨水が通る雨水管、生活排水が通る汚水管の2つを設けることを「分流式」と呼びます。上記の通り、雨水管は直接河川へ、汚水管は処理施設を通して河川へ放流されます。反対に、雨水管と汚水管の両方を処理施設で処理して河川に放流することを「合流式」と呼びます。
上山市は、分流式が採用されています。
公共下水道事業
上山市は1974年に下水道事業認可を取得、1981年11月10日から公共下水道の供用を開始しました。
市内には2つの下水道処理区域が存在し、上山市が単独で整備する公共下水道事業の「上山処理区」、複数の市町村が一体となって整備する流域下水道事業の「久保手処理分区」です。上山処理区は弁天にある「上山市浄水センター」で、久保手処理分区は天童市の「山形浄化センター」で処理されています。
2019年時点で、上山市全体における人口は29,846人、そのうち上山処理区の人口は22,152人、久保手処理分区の人口は92人です。市全体の人口に対する公共下水道の普及率は74.53%(22,244人)で、7,602人は公共下水道が利用出来ない状況にあります。
また、公共下水道の処理区域内で実際に下水道に接続されている人口(水洗化人口)は、上山処理区で20,460人、久保手処理分区で30人、計20,490人(92.1%)となり、処理区域内でも全ての住宅などが下水道に接続されている訳ではないという結果でした。
上山処理区
上山処理区は1975年3月に事業着手、上記に挙げた通り1981年11月10日から公共下水道の供用を開始しました。
2019年時点での上山処理区における下水道事業の概要は次の通りです。
処理区域内人口 | 22,152人 |
---|---|
水洗化人口 | 20,460人 |
事業計画面積 | 895.8ha |
供用開始面積 | 773.2ha |
汚水管総距離 | 153.1km |
整備率 | 86.3% |
上山処理区における生活排水等の下水は、弁天にある「上山市浄水センター」で処理されています。
上山市浄水センターは2011年から指定管理者制度により「水ingAM株式会社 東北支店」が施設全体及びマンホールポンプ場の運用を行っています。
各住宅などから出た生活排水は道路の下に埋められた汚水管を通り、上山市浄水センターまで送られます。汚水管は浄水センターに向かって自然流下するように下り勾配となっていますが、距離がある所や高低差がある所については、市内の複数箇所に設置されているマンホールポンプ場で汲み上げ、再び自然流下させています。2020年3月時点で、市内19か所にマンホールポンプ場が設置されています。
上山市浄水センターでは、微生物によって処理を行う「標準活性汚泥法」が採用されています。敷地面積は6.11haで、1日あたりの汚水処理能力は14,400㎥、処理された水は浄水センターのすぐ東側を流れる須川に放流されます。
久保手処理分区
久保手処理分区は2002年3月に事業着手、2009年4月から公共下水道の供用を開始しました。上山処理区とは異なり、複数の市町村が一体で整備する「流域下水道」の区域となり、処理は天童市にある「山形浄化センター」で行われています。
2019年時点での久保手処理分区における下水道事業の概要は次の通りです。
処理区域内人口 | 92人 |
---|---|
水洗化人口 | 30人 |
事業計画面積 | 10ha |
供用開始面積 | 3.6ha |
汚水管総距離 | 1.5km |
整備率 | 36.2% |
久保手処理分区における生活排水等の下水は、山形県建設技術センターが管理する天童市にある「山形浄化センター」で処理されています。
山形県では4つの地域で流域下水道事業が行われ、久保手処理分区は「山形処理区」に該当します。
山形浄化センターは、1992年2月から供用開始、上山市の久保手をはじめ山形市・天童市・山辺町・中山町の流域下水道事業に該当する地域からの下水を上山市と同様に「標準活性汚泥法」で処理し、処理された水は最上川に放流されます。
農業集落排水事業
この事業は、農村地域における生活環境や水質改善のために、生活排水の処理施設を整備するものです。
上山市には、仙石処理区、糸目・金生処理区、小穴処理区、思川処理区、宮川処理区、宮川2処理区の計6つの処理区が設けられています。
それぞれの処理区における事業の概要は次の通りです。
処理区名 | 計画処理人口 | 供用開始 | 対象地区 |
---|---|---|---|
仙石処理区 | 320人 | 1984年12月5日 | 仙石 |
糸目・金生処理区 | 490人 | 1988年4月1日 | 糸目、金生の一部 |
小穴処理区 | 490人 | 1993年4月1日 | 小穴 |
思川処理区 | 1,510人 | 1996年4月1日 | 赤坂、細谷、藤吾・阿弥陀地・相生の一部 |
宮川処理区 | 1,430人 | 1999年11月1日 | 牧野、原口、須田板、皆沢の一部 |
宮川2処理区 | 1,030人 | 2008年4月1日 | 楢下、小笹、久保川、大門、菖蒲の一部 |
2022年度における6つの処理区域面積は236ha、処理区域内人口は2,697人、35kmの汚水管が整備されています。既に整備は完了し、今後は施設の更新をはじめ公共下水道への接続及び転換も視野に事業が進められています。
特定地域生活排水処理事業
2004年から供用が始まったこの事業は、市がそれぞれの家庭に合併処理浄化槽を設置するもので、「市設置型浄化槽」とも呼ばれています。
処理区域は、薄沢地区の一部・永野地区・権現堂地区・小倉地区・棚木地区の5地区で、処理区域内人口は2022年度で564人、処理区域面積は128haです。2016年時点で、210基の合併処理浄化槽が設置されています。
市設置型浄化槽とも呼ばれることから、市が対象地域における希望の家庭に生活排水を処理する合併処理浄化槽を設置し、維持管理を行います。設置を希望する家庭から分担金及び使用料を徴収します。
今後の課題と下水道の在り方
上山市には、公共下水道が接続されていない地域が多数存在しています。その地域では、し尿を汲み取り式または個人で浄化槽を設置という形を取らなければいけません。また、2001年4月1日以前に設置された浄化槽は、し尿のみの単独処理浄化槽の場合があり、残るお風呂や台所の水は無処理で河川へ垂れ流しという場所が存在します。
現在は、し尿やお風呂の水など生活排水全てを処理する合併処理浄化槽のみ設置出来ますが、定期的な点検や清掃、24時間ポンプによる空気の供給が必要です。設置費用も一般的に100万円以上掛かり、補助金が出る場合がほとんどですが、それでも負担が大きいのが現状です。
農業集落排水や特定地域生活排水処理も、長期的に見ると公共下水道の方が経済の面からも環境の面からもメリットが多く、機能を集約することで維持管理の効率化も図ることが出来ます。
公共下水道の整備をどの様に進めていくのか、インフラの面から見る市民の声にどう応えていくのか、今後注目したいポイントです。
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