死者の結婚式描く「ムカサリ絵馬」久昌寺に奉納された33体、山形県の村山地方を中心とした供養習俗とは
江戸時代から伝わる山形県の村山地方を中心とした民間信仰の1つ「ムカサリ絵馬」とは、戦死や事故などにより結婚せずに亡くなった人を供養するために、死後の世界における結婚式の様子を描いた絵馬のこと。「嫁を迎えて去る」「娘が去る」「向こうへ去る」などからムカサリと呼ばれている。
ムカサリ絵馬には、生きている人物を描いてはいけない。その人物が死後の世界に連れていかれてしまう、という禁忌がある。そのため、絵馬に描かれる新郎新婦の片方は死者、もう片方は架空の人物である。
上山市の牧野に位置する「馬野山 久昌寺」は寛文元年(1661年)に開山され、山形百八地蔵霊場や上山七福神霊場の1つでもあり、本堂に併設する洗心庵には本格的な坐禅堂がある。ここには取材時点で33体のムカサリ絵馬が本堂に奉納されている。情報が確認できる最も古いもので明治三十五年(1902年)「陸軍歩兵軍曹」のためによるもの。
久昌寺のムカサリ絵馬は、牧野をはじめ大門や萱平など、ほとんどが檀家による奉納である。33体のうち、半数以上が男性名義による奉納で、女性名義の奉納は確認できるもので3点、女性名義のものはいずれも男性死者のために奉納されている。ほとんどの絵馬には表面や裏面に被供養者や奉納者の情報が記され、男女どちらかの被供養者の名前が記されているのが一般的であるが、1体だけ男女それぞれの名前が記されているものがある。これは、死者同士の結婚ということではなく、それぞれの死者の傍らには結婚相手が描かれた、2組の新郎新婦を表している。
時代の変化に伴い、合成写真を使った絵馬も見受けられるようになった。また、これまでは新郎新婦の他に仲人と酌をする役割の稚児が描かれていることが多かったが、徐々に新郎新婦のみを描くものが主流となっていた。その形は変われど、死後の世界で幸せを願う奉納者の想いは1つだ。
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